柳生松右衛門尉家信

　 柳生松右衛門尉家信 （大野家信）は、流祖上泉武蔵守信綱、第二代柳生但馬守宗厳に師事して、天正１５年２月吉日(１５８７年)、宗厳から一國一人の皆傳印可を授けられ、新陰流兵法第三代を継承した天下無双の達人である。

　戦国時代に、天下一の薙刀の名手と讃えられた穴澤浄見秀俊から新當流長太刀（穴澤流薙刀）を、新陰四天王の一人であった疋田豊五郎景兼(上泉伊勢守の甥)から上泉直伝の新當流鑓術（疋田流鑓術）を相伝し、若くして新陰流と新當流の奥儀を極めた類いまれなる達人であった。

　柳生家信伝新陰流は、江戸柳生家の『江戸柳生流』・尾張柳生家の『尾張柳生流』が成立する慶長時代以前の古伝新陰流で、大和国小柳生庄で伝えられた初期の『大和柳生流』であり、現存する日本最古の柳生新陰流である。

　上泉信綱が戦国時代に実戦していた古式の新陰流の風格を今なお色濃く残している。

　筑前福岡藩の兵法師範家であった有地家に伝わる『新陰流正傳系図』『新影流傳来略誌』（熊本県立図書館蔵富永家文書）、柳生家歴代の記録をまとめた『玉栄拾遺』を始めとする江戸時代の文献によれば、達人大野家信は、もとは剣聖上泉武蔵守信綱の直弟子で、上泉や疋田と共に大和柳生家に滞在したおり、当主柳生宗厳と稽古を交える中で厚い信頼関係が芽生え、以後そのまま柳生の里に残って、大和柳生本家を支えたと伝えられている。

　その後、柳生宗厳の高弟となった大野家信は、大和柳生の地で卓越した技とその人徳を高く評価され、高弟の中で唯一『柳生』姓を名乗ることを許され、宗厳から『一國一人皆傳允可』を賜るとともに、『柳生松右衛門家信』として、流祖伝来の腰を深く落として斬り勝つ古傳の新陰流を墨守した。

　そして、柳生宗厳の名代として当流四代有地内蔵丞元勝を帯同して、長州萩藩、続いて、筑前福岡藩へ赴き、恩義ある黒田家へ古傳の新陰流を伝えた。

　柳生家信傳の新陰流は、有地家、三宅家の師範家を経て、天才軍師『黒田官兵衛』の末裔であった第十四代濱田勢州が相伝し、家傳の新陰流のほかに、蒲池派、渡邊派の各系統の師範家からも皆傳允可を受けて、柳生家信が伝えし古傳の新陰流、新當流を正しく継承、その後、黒田藩三大流儀である『 新陰流、新當流、二天一流 』を修めた第十五代光武勢州斎藤原秀信が師の意志を引き継ぎ、正統師範家として、古の技を現代に伝えている。